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認知症の高齢者は令和42(2060)年に全国で645万人になり、65歳以上の5・6人に1人を占める。
その前段階とされる軽度認知障害(MCI)の人は632万人に上り、合わせて高齢者の2・8人に1人となる見通しだ。
厚生労働省の研究班が推計を公表した。令和4年時点の認知症高齢者は443万人で8・1人に1人となる。
推計値公表は平成27年以来9年ぶりで、政府は推計をもとに認知症施策の基本計画を今秋にもまとめる。
単身者の増加も確実視されている。政府は単身で認知症の高齢者が増えるという前提で環境を整えていく必要がある。
喫緊の課題は、介護サービスを支える介護職の処遇改善だ。公費や保険料などでまかなう介護分野の処遇改善は、政府が指導力を発揮できる分野だ。それなのに、賃上げが十分に進んでいないのは怠慢である。
働き方や雇用形態を見直すだけでなく、情報通信技術(ICT)や介護ロボット活用などで介護職の負担を軽減することも欠かせない。介護サービスの基盤を充実し、親や配偶者らの介護を担う人が仕事を続けられることが大切だ。
道半ばの医薬品開発も急務だ。新薬「レカネマブ」が保険適用され、アルツハイマー型認知症の初期やMCIの人に投与が始まった。だが、進行を遅らせる薬であって、治癒を目指す薬ではない。投薬の効果は限定的である。
進行を遅らせるために、自治体が果たせる役割は大きい。認知症になっても単身でも安心して暮らせる街づくりだ。
MCIの状態からは、3割程度が改善すると指摘する研究者もいる。出かけやすい居場所をつくり、移動手段を確保し、外出を誘いあうコミュニティーづくりなどが求められる。
朗報もある。推計値は9年前よりも改善した。発症リスクの高い生活習慣病の治療の進展や喫煙率の低下など健康意識の変化が奏功したという。良い効果を継続したい。
認知症の人は、簡単な仕事に携わったり、地域で役割を果たしたりすることが生きがいになるという。何よりも本人抜きに物事を決めないでほしいと望んでいる。共に政策を考えることから活路は生まれる。
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2024年5月14日付産経新聞【主張】を転載しています